わらわらままけは

 いまひとつ、シリーズの続きを書き出す気分になれません。と、いうのも、私の気分はもう、新しいテーマの方を向いてしまっているからです。
 と、いうことで、今日はその新しいテーマに関する話題をちょっとだけ、先行して書いてみようと思います。

 (今回の記事には写真が少ないので、前回サムネイルに使った写真の二週間後の姿をトップに使ってみました)
*12月4日の晩翠通

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 先日、元寺小路の「佐々重(ささじゅう)」さんへ味噌を買いに出かけました。ここの味噌が我が家の口に合っているからで、もう長い事この店に定期的に買いに行っています。
*元寺小路の「佐々重」さん
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 佐々重さんは安政元(1854)年から続く仙台味噌の老舗なのですが、社長さんが気に入った(たぶん)全国の銘品も置いています。
 で、私がレジ前でお会計を待っている時、ふとこんなポップに目が留まりました。
   『わらわらままけは』

 「???」
 すぐにはその書いてある意味が分からず、凝視してしまいました。
 頭の中で音読すること、十数秒。
「あ、そうか!」
 ようやくく気づきました。
 「これ、東北方言じゃん!」
 そう気づくと、その意味も直ぐに分かりました。ただ、その意味は二種類読み取る事が出来、地域によってニュアンスがだいぶ異なります。この事については後程述べようと思います。




 最初、私はこの言葉が津軽弁、特に弘前周辺の方言じゃないか、と想像したのですが、家に帰ってから調べて見ましたら、これは山形の東根市の「壽屋寿香蔵」という会社が出している漬物の商品名でした。私が見たPOPには、卵かけご飯に載ったこの漬物の写真が添えられていました。
 この「壽屋寿香蔵」のHpには、この商品名が漢字混じり文で書かれていますので、この言葉が幾つかの単語が組み合わさった文章であることが分かります。まずは、この言葉を品詞ごとに分解して、この言葉の意味を解き明かしていこうと思います。
 この言葉を品詞ごとに分解すると以下の様になります。
 「わらわら」(副詞)+「まま」(名詞)+「け」(動詞)+「は」(助詞)
 (注:ちょっとみると、S(主語)+V(動詞)の構文の様に見えますが、そうではありません。「まま」と言う名詞は主語ではなく、目的語でして、主語は「あなた」もしくは「あなたたち」で、省略されています。従って構文はS+O+Vという、日本語では典型的な形です。ちなみに、構文は助詞が入っている位置や、その役割で判断するのがよく使われる手法です)

 次は、この品詞ごとにその標準語・共通語の意味を調べ、書いて行きます。



 「わらわら」
 これは「笑笑」(名詞:某居酒屋チェーン店の店名)ではありません(笑)。
 広辞苑の第三版を引きますと、「わらわら」の意味として、『散りみだれるさま。ばらばら』と書かれています。デジタル大辞林では『副詞:①多くの人が群れ集まったり、群衆がばらばらと散っていったりするさま。動物についてもいう。「解散の合図で皆がわらわらと散る」「小魚がわらわら集まってくる」 ②<広辞苑と同じ>』と、ありました。
 例文にもありますように、多くの場合、「と」と言う接続助詞をともなって動詞を修飾します。
 これが「わらわら」と言う言葉の標準語・共通語の意味なのですが、今はあまり使われない、ちょっと古くなった言葉ですね。

 北関東~東北方言の「わらわら」の意味はこれとはちょっと違っています。と、言いましても元は同じですので、人や動物が群れ動く様、という擬態語のニュアンスは残しています。
 精選版日本国語大辞典に方言の「わらわら」の意味に近い言葉が載っていました。下に引用します。
 『④急いで行動するさま、統制がとれていないさまなどを表す語』
 現在の標準語・共通語ではこの意味で使われることはほとんど無いと思うのですが、私は茨城でこの意味で使われた用例を聞いています。
 私が以前いた会社では茨城にも工場がありまして、社長のお供でその工場へ視察に行った時の事です。
 「○○さん、△号機のコンベアだけ真新しいんだけど、どうしたの?」
と、顔見知りのメンテナンス担当者に私が聞きますと、
 「社長が視察に来るっていうんで、ついさっきわらわら取っ替えたさ。端っこがボロボロになってたからね」
と、そのメンテナンス担当者が答えました。私が知っていた標準語の意味とは少し違った使われ方でしたので記憶に残っていました。
 ちなみに、「わらわら」と言う言葉は仙台市街地ではほとんど使われませんで、宮城県の県南地域と県北地域では意味が少し異なって使われます。(宮城県の県南は「南奥羽方言」、県北は「北奥羽方言」となるためです。発音はほぼ同じなのですが、アクセントや語彙がだいぶ異なります)
 県南地域では先ほどの茨木方言とほぼ同じ意味ですが、県北地域では一心不乱に物事を行うさまという様な意味合いになります。ま、「急いで」と言った態様も含んでの意味なのですが…
 と、これはちなみになのですが、先ほどの精選版日本国語大辞典には「わらわら」の意味として『②陽気なさまを表す語』と言うのも載っています。某居酒屋チェーン店の名称は、この意味も持たせた語呂合わせなのでしょうね。



 次に「まま」ですが、、、
先ほどの「壽屋寿香蔵」のHpにも『飯』と漢字で書いてありましたように、「ご飯、食事」の意味の名詞です。
 標準語・共通語では、現在「まんま」という様な発音で幼児語としての使われ方のみ(「おまんまのくい上げだ」の様に、限定されたイデオムにも残っています)になっていますが、方言としては都市部を除く広い範囲で使われています。
 たぶんですが、元は「ま」一文字で、「食べる」と言う動詞と、「食べるもの・食べられるもの」と言う名詞の両方の意味を持つ言葉だったと思われます。それが、「食べ物」という名詞の意味に限定するために「ま・ま」と二語重ねて強調した事がこの語の始まりではなかったのか、と思います。(異言語話者同士のコミュニケーションを想像してみてください。文法などはどうでも良くて、僅かに知っている単語の羅列で意思を伝えようとしますね。で、その時特に伝えたい思い、例えば「腹が減っているから何か食べ物が欲しい」であれば、「食べ物」と言う、一番重要な言葉を、相手の言語、自分が使っている言語に関わらず繰り返して強調しますね。それです)
 と、いうことで、この「まま」と言う言葉は、太古から続く息の長い古い言葉です。



 さて、「け」ですが、、、
 これも「壽屋寿香蔵」のHpで『喰』の漢字が充ててありましたように、「食べる」と言う意味の動詞「」の命令形です。津軽方言を代表とする、北奥羽地方方言の代表の様な方言(語彙)です。ただ、活用形や発音は少し異なりますが、北奥羽地方に限らず、広い地域で使われる方言でもあります。下記の様な会話の例が、津軽方言の笑い話として引かれることが多いですね。
 「かきく?」
 「く」
 「け」

 カ行四段(か、き、く、け)の発音だけで成り立つ津軽弁の会話例です(笑)。標準語に直すと以下の様になります。
 「柿食べますか?」
 「食べます」
 「じゃあ、どうぞ召し上がれ」


 語源は、「くう(食う、喰う)」というワ行四段活用(現在の「学校文法」ではこれを五段活用としています)の動詞です。
 この「くう」と言う動詞は、語尾が以下の様に活用します。
  ・未然形=食・(ない、れる、せる)/食・(う)
  ・連用形=食・(ます、たい、ながら)/食・(た、て)
  ・終止形=食・(。、と、から、けれど)
  ・連体形=食・(とき、こと、<名詞>)
  ・仮定形=食・(ば)
  ・命令形=食・(。、!、と)
 漢字の「食(く)」が語幹で、強調文字にした所が活用語尾です。カッコ内はそれぞれの活用形に続く言葉の例です。
 スラッシュ(/)の後の、未然形の「」は、意思を表す助詞の「う」に続く場合、古くは「食・+う(ku・wa+u)」でした。しかし、活用語尾の「wa」と助詞の「u」が融合(円唇化)し、「オー」と長母音で発音されるようになります。これが戦後の「現代日本語表記」で「食・+う」となったものです。したがって、この「お」はワ行の「お」でして、このことから学校文法では「食う」と言う動詞を「ワ行五段活用動詞」としています。
 連用形のスラッシュの後の「っ」は促音便です。元の活用語尾はワ行の「い」および、ウ音便の「う」です。

 で、これが͡訛化した方言の「く」ですが、、、ちょっと厄介です。それは、ひとつには地域差があるということ、もうひとつには現代日本語の文法にないふるまいをするという事です。ま、方言ですので、当然と言えば当然なことなのですが…
 ともあれ、この方言の「く」と言う動詞ですが、北奥羽方言の基本形では以下の様な「カ行上三段活用」をします。
  ・未然形=か(kk<a>)
  ・連用形=く(kk<u>)/(kk<u>・
  ・終止形=く(kk<u>)
  ・連体形=く(kku)/(長母音)、(kku・<u>)
  ・仮定形=け(kk
  ・命令形=け(kk
 語幹と活用語尾が一緒です。つまり、語幹そのものが変化します。
 カッコ内は発音なのですが、本来は万国発音記号で表すべきなのですが、私自身も不慣れですし、不正確になる事を顧みず、ローマ字表記にしてみました。< >内は穏母音、つまり口の形だけでほとんど発音されない母音です。
 北奥羽方言におけるカ行の子音の発音ですが、名詞の語頭にあるカ行の子音は標準語と同じなのですが、語中や語尾、また動詞においては子音が強く発音され、多くの場合それに付属する母音が無声化します(「促音化」)。これを(kk<〇>)で表しました。(ちなみに、サ行やタ行の動詞でも同様の事が起きます)
 ただ、これは後に標準語の語彙が続く時には起こりにくく、標準語のカ行音になるのが普通です。連体形ではそうなりやすいです。

 さて、「上三段活用」という聞き慣れない言葉が出てきました。方言なので文法の埒外、と言えばそうなのですが、標準の日本語文法には「上三段活用」といった動詞・形容詞・形容動詞の活用型はありません。しかし、北奥羽方言のみならず、南奥羽方言にも「上三段活用」は存在します。そればかりか、「中三段活用」、「下三段活用」、「上一段活用」、「中一段活用」、「下一段活用」と言った活用型も存在します。
 何故そう言うことがあるのか、ということですが、、、
 今回の「食う」というワ行四段の動詞が訛化して出来た上三段活用の動詞の「け」ですが、この訛化のプロセスでは「連母音融合」という事が起きているのです。発音記号で表記した方が良い事柄ですが、またもやローマ字で代用します。
 ワ行上四段活用の終止形「食う」と言う動詞の場合、「ku」・「u」と、「く」の母音の「u」の後に「u」と言う母音の活用語尾が連続します。この時この二つの母音は融合し、「ku」と言う一語に変わります。これが各段で起こり、結果、語幹に活用語尾が埋没した「カ行上三段活用」となるわけです。
 ただし、未然形の「食・わ(ku・wa)」の場合だけはちょっと違って、「唇音退化現象」というプロセスで「か」になっています。つまり、「わ」の発音の上下唇が合わさることが省略されてゆき、「くわ」→「くゎ」→「くぁ」→「か」と変化したことによるものです。これも、北奥羽方言においては破裂音(軟口蓋破裂音)の子音が強調される、という事が原因の一端になっています。

 今回の話題には直接関係しないのですが、北奥羽方言にはもうひとつ音韻学的な特徴があります。それは北奥羽方言が「シラビーム方言」である、ということです。薩摩弁に代表される九州南部方言にも同様の事が見られます。よく、津軽弁を聞いた他地方の人達から、「さっぱり聞き取れない。まるでフランス語みたいだ」といった感想が聞かれますね。その原因になっている音韻上の特徴です。
 よく、英語などは「ストレス・アクセント(強勢アクセント)」だけども、日本語は「ピッチ・アクセント(高低アクセント)」だ、と言われます。
 英語などでは中心となる主要な母音を中心に、母音の語単独、もしくはその前後の数語がアクセントの1単位・「音節(シラブル)」です。それに対して日本語は、基本1語がアクセントの1単位・「拍(モーラ)」です。(長音、撥音は1文字=1モーラだが、拗音は2文字で1モーラ)
 例えば、「かたな(刀)」と言う言葉を英語話者が英語風に発音した場合、一般的には「katt<a>・na」と、2音節になり、アクセントは最初の「a」に置かれますが(3音節で、真ん中の「a」にアクセントを置く人もいます)、日本語話者では「ka・ta・na」と3モーラとなり、「低・高・低」のアクセントになります。
 *こちらの例の方が分かりやすいかな?
7月榴岡・歴史民俗資料館-07_28_2019-016 (1024x683).jpg
 この写真は仙台市歴史民俗資料館の階段の写真です。階段の各ステップに「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」と「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」と言うシールが貼られています。元は階段を急いで駈け上ったり、駈け下りたりすると危険なので、昔遊びにかこつけてゆっくり一段づつ上り下りしてもらおうというアイデアだったのですが…
 で、来館した小学生に言われたのですが、「チョコレートはチョ・コ・レ・イ・トでしょう? だってこれじゃパイナップルと数が同じになってしまうじゃん」と…
 ええ、そうなんですよね。「パイナップル」は6拍ですが、「チョコレート」は5拍なんですよね。子供たちの方が正しいです。これじゃあ違いが出ないのでじゃんけん遊びもつまらなくなります。

 だいぶ脱線してしまいました。
 で、北奥羽方言や九州南部方言のアクセント区切りですが、シラブルとモーラの中間というか、だいぶシラブル寄りの区切りなのです。そこからこれを「シラビーム方言」と呼びます。
 例えば先ほどの「チョコレート」ですが、共通語では「チョ・コ・レ・-・ト」と5拍ですが、北奥羽方言のような「シラビーム方言では「チョ・コ・レー・ト」と、4拍になります。
 で、アクセントは基本ピッチアクセントなのですが、共通語では音の高さを急激に下げることでアクセントを表します。しかし、北奥羽方言ではピッチを上げた所がアクセント核になり、以後もそのピッチの高さがキープされる、という特徴になります。
 これに先ほどの子音の強調・母音の後退の特徴が加わると、どうも日本語には聞こえなくなるようなのですね。英語話者が習いたての日本語を話すように、中上がりで、撥音子音が強く聞こえ、1語、1語の区切りが聞き取りづらい、ということになります。


北奥羽方言の会話例(「青森弁の真打」、YouTubeへのリンク)
 全部で4分50秒ほどの短い動画ですが、2分02秒辺りから「く(喰)」と言う動詞を使った会話例が聞かれます。
 キャプションでは「青森弁(南部弁)」と書かれていますが、「南部弁」も「下北方言」「上北方言」「三八方言」の三つに分かれます。動画中で、接続助詞に「すけ」が使われていることから推測するに、青森県南部(十和田、三沢、横浜町等々)の「南部弁(上北方言)」ではないかと思われます。(下北地方では「すて」、三八地方では「へんで」を使う)
 北奥羽方言の代表である津軽弁とはかなり異なる方言ですが、ま、音韻学的には一応北奥羽方言の範疇に入りますし、その特徴も出ています。
 この動画ですが、話者の発音ははっきりしていますし、録音レベルも安定していますので、比較的聞き取りやすいです。「く(喰)」と言う言葉が何度か出てきますが、「栗」の「く」と「喰」の「く」の発音の違いを確かめてください。前者は「ku」と母音がはっきり発音されているのに対し、後者は「kk<u>」と、子音が強くなって母音は微かになっています。
 また、否定の助詞を伴う未然形ではカ行一段目の「か」となり、「か・ね」と話されるのですが、この時可能の助動詞「れる、られる」に相当する「える」が使われることがあります。これは南部弁に特徴的な言葉で、2分22秒辺りで『かえねがった』と話しています。
 その他、これは南奥羽方言でもそうなのですが、「シとス」、「チとツ」、「ジとズ」の区別が曖昧になるとか、「く」の後に促音が続く場合に「く」の音の子音が強く発音され、母音がほとんど無くなり、「kki」や「tsu」や「tsi」のように聞こえる、といった特徴もあります。
 津軽弁ではこの子音が強く発音される特徴やモーラがシラブルになる特徴がもっとはっきり出るのですが、この動画の会話でもその特徴を一定程度聞き取る事が出来ます。







 最後に助詞の「は」ですが、、、
 私がこの短い文章の解読に十数秒もかかったのはこの「は」があった為です。
 最初は8文字からなる固有名詞の内の1文字かな、と言う見方から始まりまして、次に係助詞の「は」、つまり「私」とか、「猫印の宅配便」の「は」を思い浮かべました。しかし、文末に係助詞が来るのは不自然ですよね。
 で、この係助詞の「は」は、現在では「は」と書いて「wa」と発音しますね。この音がまだ頭の中にあるうちに、あれ、これはもしかすると終助詞「よ」の方言の「は」なのじゃないか、と気づいたのです。(それこそ、はっ!と… ww)つまり、「早くご飯食べてしまいなさい」の「よ」です。注意や忠告をする時、誘う時などに語尾に添える助詞です。
 と、言いますのも、仙台弁では「よ」の代わりに「わ」を終助詞として使っていて、「わらわらままけぇわ」と言った言い方をするからです。仙台弁では「wa」とはっきり発音しています。
 しかし、宮城県でも岩手県に近い方とか、山形県の村山地方などでは「ha」と発音しています。これは私も何度か聞いています。

 あっと、、、この終助詞の「よ」ですが、同じ北奥羽方言でも津軽弁や南部弁では「わ」や「は」よりも「じゃ」が使われる方が多くなります。「わらわらままけじゃ」と言った言い方です。


 この「わ」と言う発音と、「は」と言う語の発音ですが、日本語の歴史の上でかなり有名な音韻上の変化が込められた語でして、「ハ行転呼(はぎょうてんこ)」と呼ばれています。先ほどの係助詞の「は」が、「wa」と発音するのに何故「は」と書かれるか、という事にも関係していますし、南奥羽方言では「wa」と発音するのに、北奥羽方言では「ha」と発音するのは何故か、という事にも関係しています。
 詳述すると長くなりますので、それは専門書をお調べいただくことにして、ここでは「ハ行転呼」の簡単な説明と、係助詞の「は」だけが何故「は」と書いて「wa」と発音するのか、という事と、終助詞「よ」の方言になぜ「は」と「わ」の二つがあるのかだけをお話しします。

 まず、「ハ行転呼」が起こったのは平安時代の中頃の事です。それ以前は、ハ行の子音は両唇を合わせて、両唇の間から息を出すのと同時に唇を開く「f」、もしくは「ph」の音でした。つまり、「ふぁ、ふぃ、ふ、ふぇ、ふぉ」といった感じの音だったのです。
 しかし、平安時代中期ごろから、両唇を近づけるだけで完全にくっつけない両唇接近音で発音するようになっていきました(唇音退化現象)。両唇接近音とはすなわちワ行の発音のことです。
 この結果、それまであったハ行の音を含む語彙の内、語頭のハ行音を除くすべてがワ行音に変わってしまいました。これが「ハ行転呼」です。
 なので、現在ある語彙の内、語中や語尾にハ行の文字が含まれているものは「ハ行転呼」以降に現れた語であるという事になります。

 さて、それで係助詞の「は」が、「wa」と発音するのに何故「は」と書かれるのか、という事の理由ですが、、、
 チコちゃん流にひとことで言えば、この「ハ行転呼」を銘記する為です。
 実は、「ハ行転呼」が完了してワ行の音になった後も、表記ではハ行の文字を使っていました。これは文字までもワ行のものに変えてしまうと、昔の記述との整合性がとれなくなるためでした。
 助詞の「は」は「ハ行転呼」以前から在った”大和言葉”です。従って、発音が「wa」となった後も「は」と言う文字で書き表していました。
 戦後すぐに行われた国語審議会の「現代仮名遣い」の審議の場において、この助詞の「は」についても、「一音一語」の原則から言っても発音通り「わ」とすべきではないか、と言う意見も出たのですが、助詞は「ハ行転呼」以前から在る大和言葉であり、その表記は変えるべきではない、と言う意見が大勢を占め、現在に至っています。
 ちなみに、「○○へ行く」の「へ」も、「は」と同様です。

 ここまでお話すれば、南奥羽方言では「わ」なのが北奥羽方言では「は」である理由がもうお分かりになりますね。古代においては、北奥羽地方に比べ南奥羽地方の方が中央政権に近かったので「ハ行転呼」の影響を受けて「わ」と言う発音になり、対して北奥羽地方では「ハ行転呼」以前の発音が残り、それが中世以降に現在のハ行音、無声声門摩擦音(は、へ、ほ)、無声硬口蓋摩擦音(ひ)、無声両唇摩擦音(ふ)に変化した、という事なのです。





 長々と蘊蓄を述べてしまいました。結論です。
 この商品名は北奥羽方言の内の新庄弁(新庄市を中心とする最上地方の方言)で、
 「がんばって沢山ご飯を食べてくださいよ」
と言う意味でした。
 壽屋寿香蔵のHpには『「わらわら飯喰は」とは山形弁でご飯ですよ~の意味です』と書かれていますが、直訳すればこうなります。

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この記事へのコメント

2020年12月15日 17:04
青森弁の真打を見ましたが
全く意味が解りませんでしたが
相手の方は、解るのでしょうね、

流暢で まるで異国語に聞こえました(笑)
早口でもあり みなとの様にトロイ!!人間には
羨ましく思いました。

祖父は、青森出身でしたがあのように早口ではなかった。
父は、地元で生まれましたが(け)は、子供のころから
父が言っていたので(食べなさい)・・だけ解って居ました。
母は山形出身でしたから年を取ってから良く
山形弁が出ました。

わらわらままけ・・よ‥解りました(#^.^#)
(人''▽`)ありがとう☆
2020年12月16日 09:11
みなとさん、おはようございます。

 私がこの動画を初めて見たのは3~4年前だったのですが、その時でも話の大筋はつかめました。と、いいますのも、以前の職場で付き合いが多かった宮城県北の人達の方言にも似ているからです。もちろん、青森南部地方独特の語彙や言い回しがあって、それは直ぐには意味が分からなかったのですが、その後青森方言を調べるうちに意味が分かるようになりました。
 しかし、今回この記事を書くにあたって、この動画の聞き書きを試してみたのですが、いくつか聞き取りが出来ていなかった単語が出て来たのです。改めて青森方言は難しい、と思った次第です。

 お母さまが山形の御出身との事ですが、山形県も宮城県と同様に、県の真ん中で北奥羽方言(荘内方言、小国方言)と南奥羽方言(村山方言、最上方言、置賜方言)とに分かれます。南と北では発音やアクセントに大きな違いがあります。現在は意思の疎通が全くできない、という事は無くなっているのですが、それでも荘内方言(北奥羽方言)の人と、置賜方言(南奥羽方言)の人との会話には困難が伴います。お母さまはどちらなのでしょうね?
2020年12月16日 20:31
こんばんは!
亡母は、山形県鶴岡市小波渡です。
ブログの鶴岡のお友達が小波渡の写真を
沢山採ってくれたので 母に見せました。
一緒に行こうと誘いましたが。。

母の姉が留萌の人と結婚していたので
18歳の時、頼って一人で来たそうです。
母の実母が亡くなり父が再婚して
家に居づらかった事情があったらしく {詳しく話さず・・}
父と結婚して、1度も故郷に帰らなかったのです。
2020年12月17日 09:14
みなとさん、おはようございます。

 そうですか、お母さまは辛い思いをなさったのでしょうね。

 私は鶴岡には何度か行ったことがあるのですが、小波渡(こばと)までは足を延ばしたことがありません。港町で、国道7号線沿い、と言うくらいの知識しかありません。たしか、小波渡は北前船の風待ち港だったような記憶もあるのですが…
 鶴岡周辺は北奥羽方言の域内で、酒田と共に「庄内弁」が話されています。ただ、狭い域内のですが、酒田と鶴岡では使われる語彙や語尾等に違いがみられ、聞く人が聞くと、酒田出身なのか鶴岡出身なのか、直ぐに分かるのだそうです。
 鶴岡の城下言葉も、酒田の町言葉も、女性が話すと上品で美しい言葉ですよ。
2020年12月17日 11:14
お早うございます(#^.^#)
小波渡の写真を見た時 本当に驚きました。
余りにも、我が地三泊町に似ていたのです。

それに 写真を見た父が 小波渡の事を
詳しく知っていたことも、想いだします。
1度も行った事が無い父でしたが 母から
詳しく聞かされていたのでしょうね・・(笑)

亡母は、荘内弁だと思っていました。
有難う御座いました。(#^.^#)
2020年12月18日 00:12
こんばんは。
(いきなりの大雪に参っています。)
興味深く読ませていただきました。
「わらわらままけは」最初は何のことかわかりませんでしたが,読み進めていくうちに「わらわら・まま・け」までは予想もできるようになりました。
でも,最後の「は」は何のアイディアも浮かびませんでしたが,「WA」かぁと膝を打ちました。
小さいころよく聞きました。「暗くなってきたから早く帰れわ」の「わ」ですよね。
よく考えると単に動詞につくのではなく,上のような「わらわら」とか「早く」のような副詞・副詞的な言葉が付くのが多いような気がします。
2020年12月18日 07:21
みなとさん、おはようございます。

 お母さまの望郷の念、それに寄り添うお父様のお母さまに対する愛情、、、切ない思いになります。
 良いお話をありがとうございました。
2020年12月18日 07:48
ET先生、おはようございます。

 終助詞の「わ」ですが、先生のおっしゃる通りです。仙台近郊でよく使われますね。かくいう私もよく使います。
 実を言いますと、共通語でも終助詞として「わ」が使われます。ただ、我々が使う方言の「わ」とはニュアンスが少し違って、「今日は格別寒いわ」とか、「こっちの鋏の方が使いやすいわ」とかのように、詠嘆や前置の文節のひとつを強調する意味で使われます。なぜそのような違いが生まれたのかは私には分からないのですが…

 先生がお気づきになられた『単に動詞につくのではなく,上のような「わらわら」とか「早く」のような副詞・副詞的な言葉が付くのが多い』と言う件ですが、確かにそうですね。もしかすると、共通語の「わ」の「前置の文節のひとつを強調する」と言う役割を引き継いでいるのかもしれません。