思わず二度見をしてしまった看板

 昨日までに「い~ちまい に~まい さんま~い」の第二回目を書き上げる予定でいたのですが、資料の読み込みに思いのほか時間を食っています。まだ三、四日の日数は必要なようです。
 なので、短い話を1話挿みまして、時間を稼ごうと思います。たわいもないお話ですが、埋め草ですのでご容赦を・・・




 先日、買い物に出かけた街中で「?!」な看板を見つけまして、思わず足を止めて二度見をしてしまいました。
*これです
P9月勾当台通・北三番丁-09_06_2020-003 (1024x768).jpg
 皆さんは私が何故足を止めて「?!」と思ったかお気づきですよね。
 一回目に目を遣った時は、私はこの看板を、「どんぶり ぶり」と読み、「ん?、鰤のどんぶり??」と思ったのです。で、他の情報も無いかと、足を止めて店先のメニューにも目を遣りました。
 そうして、漸くここが丼物で有名なファストフードのナショナルチェーンだという事に気付き、もしかするとこの看板は「丼ぶり」と書いて「どんぶり」と読ませようとしてるのか、と気付いたのです。

 う~ん、参ったなあ・・・
 たしかに、「丼」という漢字は「どん」とも読みます。ただそれは慣用読みで、天婦羅丼(てんぷらどんぶり)を省略した「てんどん」、親子丼(おやこどんぶり)を省略した「おやこどん」と言う省略語の時の読み方なのです。「どんぶり」を表す漢字は「丼」一字で良いのです。「-ぶり」を送り仮名の様に付け加える必要はありません。

 こうした誤用はこのチェーン店だけなんだろうなあ、と思ったのですが、念のため、とネット検索をしたところ、出るわ出るわ!、、、
 曰く、『丼ぶりの種類一覧!有名な丼ぶりからマイナーな丼ぶりまで!』とか、『10種類の丼ぶりをピックアップ』とか・・・
 あれまあ!!
 これって、今の流行なんですか? 私が時代に乗り遅れている?





 そもそもなのですが、、、「丼」という漢字に「どんぶり(丼鉢、丼鉢に盛られて供される軽食)」の意味はありませんでした。「丼」という漢字の漢音は「セイ、タン」、呉音は「トン」で、語義は「いど(井戸)」でした。つまり、「丼」という漢字は「井」の正字、元の漢字だったのです。ただ、結構古い時代から「井」の中の「」を省略して書くようになっています。
 「丼」という漢字の字源を言いますと、「井」は囲いを表し、その中の「」は水を表しています。つまり、囲われた水、ということから井戸の意味となった訳です。

 一方、江戸時代の中頃になると、江戸の町に「慳貪屋(けんどんや)」と言う、いわばファストフード店が現れます。江戸は出稼ぎの男たちの町でしたからね。手軽に、かつ気軽に飯を食べられる店が求められたのです。

 で、私の本棚の「近世風俗志」岩波文庫に、その「慳貪屋」に関する記述がありましたので、その本を引っ張り出して来て、かいつまんで引用してみます。
 まず、「慳貪(けんどん)」の説明ですが、『慳貪は吝嗇に近く、食を強ひざるの意をもって号(なづ)けしなり』とあります。つまり、気張ってお金をかけるようなことをしないとか、畏まってお膳の前につくようなことをしない、と言うような意味です。
 で、この「慳貪」という言葉を用いた店にどんな店があったかなのですが、、、
 まず、「慳貪屋」と称する店が現れる前、
 『寛文四年、慳貪蕎麦切始めてこれを製す。下賤の食とす。価八文』等々、とあるように、饂飩や蕎麦の店(たぶん立ち食い蕎麦ではないのかと思います)の事だったようです。ちなみに、今の様に細長く切った蕎麦(当時はこれを「蕎麦切り」と呼んでいました)は寛文年間に始まっています。
 その後、
 『元禄の書に、京三条縄手茶屋けんどん弁当』
と、ある様に、他の料理にも「慳貪」と言う言葉が使われるようになります。
 「慳貪」を冠した料理屋(つまり、現代のファミリーレストランか定食屋さんのような業態ですね)が現れるのは、『世事談に曰く』とありますので、たぶん正徳か享保頃(1700年前後)だと思います。
 『慳貪は江戸瀬戸物町信濃屋と云う者、始めてこれを巧す』
と、書いてあります。これは瞬く間にあちこちに流行して何軒も同様の店が出来て行きます。
*「慳貪屋」の挿絵
   「近世風俗志(一)」喜多川守貞著/岩波文庫より
慳貪屋_0001.jpg
 (店先の行燈に「けんどん」と「けんどんめし」・「そは切」の文字が書かれています)
 こうした「慳貪」の店がはやる理由を、
 『これを慳貪と号(なづ)くるは、独味して人に与えず、また給仕もいらず、挨拶にもあらねば、そのさま慳貪なる意』
と、書いています。つまり、どこにも気を使わずに”独り飯”が出来る気楽さが受けた、という事のようです。

 と、いう事で、江戸の中期ごろに「慳貪屋」というファストフード店が出来た訳ですが、こうしたお店で使われていた大鉢の器を「慳貪振鉢(けんどんぶりばち)」、つまり、「慳貪屋様式の鉢」と呼んでいたのだそうです。で、それが詰まって「どんぶりばち」と呼ぶようになった訳ですが、、、
 これを文字にする際に、「どんぶり」という音に似合う漢字はなんかないかなあ、と探していて、もう忘れられかけていた「丼」という漢字に行き当たったのだそうです。この「丼」という漢字が良さそうじゃないの、と、、、
 だって、井戸(井)の中に石()を落とすと「どんぶり」って音がしますよね。

ーーーーお後がよろしい様で

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この記事へのコメント

2020年09月07日 22:00
こんばんは。
「丼ぶり」と書いて「どんぶり」と読ませる。何か似たような例があったような気がしますが思い出せません。
「牛舌」と書いて「牛タン」と読ませるのと・・・違うかあ。
「どんぶり」の考察さすがです。あと報告になりますが,UFO型信号機の記事を書きました。あきかねさんのお名前を出させていただきました。



2020年09月08日 08:38
ET先生、おはようございます。

 私が思い付く似た例は「にわ鶏」でしょうか。以前スーパーで見たことがあります。
 でも、これは「庭鶏」や「家鶏」と書いて「にわとり」と読ませる例が古い書物にあるのであながち間違いとも言えないのですが、平仮名交じりで「にわ鶏」と書くと違和感がありますね。
 (漢字の「鶏」は、古くはアヒルなども含めた家禽一般を指していました)
 「牛舌」と書いて「ぎゅうたん」と読ませるのは、まあアリなんじゃないかと思います。外来語に既存の漢字を充てて日本語にしてしまうのは昔からよくあることですし、日本語の特権だと思っています(笑)。

 あ、「UFO信号機」の件ですか、OKです。