冷やして食べる和菓子

 この題材は6年ほど前に採り上げたものなのですが、その記事はすでに消去してしまいましたし、少し付け加えたい事もありましたのでリメイクしてアップしました。





 いつもですと梅雨明けぐらいからなのですが、暑い時期になると無性に食べたくなる、冷やして食べる和菓子があります。それは、「麩饅頭(ふまんじゅう)」という物です。
*玉澤総本店の「麩饅頭」
6月玉澤総本店麩饅頭-06_14_2014-003 (1024x576).jpg6月玉澤総本店麩饅頭-06_14_2014-005 (1024x576).jpg6月玉澤総本店麩饅頭-06_14_2014-011 (1024x576).jpg
 「-饅頭」と、名が付いていますが、皮の生地は小麦粉や上新粉が材料ではありません。「生麩(なまふ)」です。青海苔を練り込んだ生麩でこしあんを包んでいます。麩饅頭も、包んでいる笹も、十分に水に馴染ませてありますので、つるっと口に入り、即座に涼を感じる事が出来ます。
 このような”生もの”ですので、当然日持ちはせず、持ち帰りの時に「当日限りでお召し上がりください」と、言われます。保冷材もつけてくれます。


 私がこの「麩饅頭」に初めて出会ったのは四十数年前で、京都ででした。
 ある日、代休で平日に休みがとれ、京都御所を見物した帰りに釜座通(かまんざどおり)を丸太町通の方へ歩いていましたら、会社の先輩(女性)に出会ったのです。
 「あ~ら、○○君、どうしたの、こんなところで…」
 その先輩は日傘をさしていましたので、私が気付くよりも先に私に声をかけてきました。
 「御所見物に行ってきた帰りなのですが、△△さんこそどうしたんですか、こんな時間こんな場所で、」
 京都に赴任したてで、ろくに知り合いの居ない街中で突然に声をかけられ、私は少なからず動揺してしまいました。
 「□□さん(上司)に命じられて麩饅頭を買いに行く所なの。お得意さんの所へ持って行くみたい」
 祇園祭が終わったばかりで、招待券を頂いたお礼に行くのでしょう。この時期はそれ以外にも暑中見舞いや何やら結構挨拶回りがあります。
 「そうだ、ちょうど良かった、荷物持ち手伝って、どうせ暇なんでしょう」
 ちょっといたずらっぽい笑顔で、そんなことを言ってきました。
 え~、こっちは久々の休みなんだけどなぁ、、、
 と、思いつつも、色々と親切に教えてもらっている先輩だし、初めて聞いた「麩饅頭」というものにも少なからず興味があったしで、お供することにしました。だいいち、こんな街中で年上の女性に笑顔でたのまれたら無碍に断ることなどできないです。
 すぐそこだから、と連れて行かれた先は古都特有の細い通り(西洞院通り/にしのとういんとおり)で、その店は弁柄格子ではなかったのですが、格子窓を配した入り口は狭く、その奥は薄暗くて、陽光に慣れた目には何が置いてあるのかさえ見えない程でした。
 先輩は日傘を畳んで店に入ったのですが、私は入り口の石の腰掛に座って待つことにしました。汗を拭きながら見上げた軒下の『麩嘉(ふうか)』という名には聞き覚えがありました。京都でも指折りの老舗の麩屋です。
 こんな所で饅頭など売っているの?
 京都にはまだ不慣れな私には当然の疑問でした。
 「○○君、麦茶お上がり」
 店の内から先輩の声が聞こえました。お店の方が冷たくした麦茶を用意してくれたようです。私も中に入ることにしました。

 もうずいぶん昔の事ですので、店内の様子を詳しくは覚えていないのですが、物を売る店の店先というよりも、作業場のような雰囲気だったと思います。薄暗い店奥には湯気が立っていて、2~3人の作業員が忙しく立ち働いていました。その内の一人は、水を張った木桶に手を入れ、何かを揉み洗いしているようでした。それが生麩を作る作業だと知ったのは後の事です。
 私たちが座っていた床几のすぐ近くにも水を張った木桶があって、そこには蓬色の、小振りな餅の様なものが十数個沈んでいます。
 白い作業服を着た人がそこから二つほど取り上げ、これまた水にさらしてあった笹の葉でくるみ、黒文字を添えて私の前に出してくれました。
 「お駄賃よ、食べおし」
と、△△さんが言ってくれました。
 笹を剥きながらしげしげと眺めている私に気付き、△△さんは、
 「あら、○○君、麩饅頭は初めてだった?」
と、微笑んでいます。
 そんな、からかうような言い様に私は少々ムッとしながらも、口に入れました。

 それはつるっと口に入り、噛むとむっちりとした生麩の感触と共に口一杯に青海苔の爽やかな香りが広がります。晒し餡は控え目の甘さで、生麩の薄っすらした塩味と絶妙のバランスです。
 美味しい!
 二つの麩饅頭は直ぐに無くなりました。口中にはまだ笹の香りが残っています。

 お駄賃は前払いだったので、私のアパートとは反対方向でしたが、京阪三条まで荷物持ちしました。
 京都で食べた麩饅頭はこの時を含めて二回だけだったのですが、この時の麩饅頭の記憶は強く残っていました。



 京都を離れた後、思い出すたびに麩饅頭を探したのですが、ついぞ見つからずに三十数年が過ぎました。生麩を製造し、それが食文化に根付く土地でないと、「麩饅頭」というお菓子も作られないですからね。現代の日本ではごく限られた所になってしまいます。私が訪ね歩いた和菓子屋さん達の話では、愛知県に「あんぷ」とか言う麩饅頭があるとか、金沢なら作っているかも、という話は聞けたのですが、東京でも仙台でも見つけられずにいました。

 それが、7,8年前、足元の仙台で見つけたのです。
 仙台に「玉澤総本店」という和菓子屋さんがあります。私はここの「黒糖まんじゅう」が好みで、エスパル地下で時折購入していました。
   ・玉澤総本店の「黒糖まんじゅう」
2月玉澤総本店黒糖饅頭-02_09_2014-007 (1024x576).jpg
 ある時、ま、汗だくだくの暑い日だったという事もあったのですが、何気なしに、
 「おたくでは麩饅頭は作っていらっしゃらないのですか?」
と、聞いたところ、
 「夏期限定ですが、作っていますよ」
という答えで、びっくりしてしまいました。なんと、身近な所で見つかったのです。
 「でも、上杉本店か一番町店でしか扱っていないのです。生ものですので」
と、店員さんは続けました。
 なるほど、それで今まで見つけられずにいたのか、と思いました。「玉澤総本店」のお菓子は、その当時はもっぱらエスパル地下で求めていて、上杉の店や一番町の店にはほとんど行ったことが無かったからです。
 あまり日を置かず、さっそく上杉本店まで買いに行きました。私の家からは結構な距離を歩かなければならなかったのですが、苦労した甲斐がありました。京都の麩嘉の「麩饅頭」と、とてもよく似た作りと味だったのです。
 で、それ以来、夏になると「玉澤総本店」で「麩饅頭」を求めるようになりました。最近は他の買い物のついでもありまして、もっぱら一番町店になりましたが…





<note>

● 「玉澤」と名の付く和菓子屋さんは二系統あります。ひとつは今回のお話に出て来た「玉澤総本店」で、もうひとつは「九重本舗玉澤」です。元は同じ「菓子司 玉澤」の出なのですが、大正時代に事情があって二系統に分かれました。
 「九重本舗玉澤」の名代のお菓子と言えば「九重(ここのえ)」なのですが、今は「晒よし飴(さらしよしあめ)」や「霜柱(しもばしら)」の方が有名になっています。
 ちなみに、「晒よし飴」は冬季限定(10月~3月頃)のお菓子です。

● 玉澤総本店の「上杉本店」と「一番町店」の住所と、各店舗の略図を載せておきます。
   「上杉本店」
 〒980-0011 宮城県仙台市青葉区上杉三丁目9-57
     TEL: 022-223-2804
   「一番町店」
 〒980-0811 宮城県仙台市青葉区一番町四丁目 9-1
     TEL: 022-262-8467
map01.png
    (この略図は「玉澤総本店」のHPからの転載です)
 「一番町店」は、三越本館正面入り口の斜め向かいですので分りやすいです。

● 麩を材料としたお菓子は、駄菓子などでは幾つかあるのですが(いわゆる「麩菓子」と言われるものです)、すべて乾燥した、つまり”干菓子”ですね。生麩をお菓子の材料としたものはとても限られたものになってきます。私の知る限りでは、この「麩饅頭」と「手毬麩(てまりふ)」くらいです。「手毬麩」は、吸い物の椀種にする方ではなく、内に糖蜜が入った方です。

● 夏に涼を求める和菓子としては、この他に「水饅頭」というものもあります。
 一般には、蕨粉(わらびこ)を混ぜた葛粉を練って、それで漉し餡を包んだものです。岐阜の大垣市の物が有名ですね。ぐい飲みに冷たい井戸水と共に入れて供し、その井戸水と共に食べる、夏ならではのお菓子です。これは各地にあって、私も東京や仙台でも食べたことがあります。
 これとよく似た姿の和菓子に、「くずざくら」と名付けられたものがあるのですが、
   ・熊谷屋の「くずざくら」
6月熊谷屋鮎と水饅頭-06_26_2015-008 (1024x683).jpg
6月熊谷屋鮎と水饅頭-06_26_2015-009 (1024x683).jpg
こちらは皮に”耐水性”が無いので、水と一緒に食べることはしません。

 で、仙台の近郊にはこの一般的な「水饅頭」とは異なった「水饅頭」があるのです。
   ・岩出山「ひさご」の「水まんぢゅう」
      (写真はネットからお借りしました)
EZqBu3-U8AA1PFG.jpg
 私は一度しか食べたことが無いのですが、皮は葛粉ではなくて上新粉でした。どうやって水にふやけない皮を作るのかが分からないのですが、買ってきてくれた社員はそれぞれの丼やコーヒーカップに冷蔵庫の冷たい水を入れ、そこに一個づつ、この「水まんじゅう」を沈めて出してくれました。
 この「水まんじゅう」も、皮はほんのりと塩味が利いていて、漉し餡は甘みを抑えてありました。美味しかったです。
 今は岩出山の道の駅にも置いてあるらしいです。



 この他にも、冷やして食べる夏の和菓子という物はあるのですが、紙数に限りもありますし、また別の機会にしたいと思います。
 (8月はずんだのシーズンだよなあ・・・)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 7

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い
ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス

この記事へのコメント

2020年07月16日 17:03
こんにちは!
投稿文がとてもリアルで思わず!ごっくんしました。
若き日のあきあかねさんの姿もくっきり!想い出されます(笑)

みなとは、甘いものが大好きです。
少し太めでが・・セ-ブしていません。
こちらの、ルモンドのやんしゅうまんじゅうが好きです(*^-^*)
2020年07月17日 08:14
みなとさん、おはようございます。

 留萌のルモンドと言うと、ラスクが有名ではなかったでしたっけ? 頂き物で食べた様な気がします。「やんしゅうまんじゅう」というのもあるのですね。私の”欲しいものリスト”に入れて置きます(笑)。