「まるたけえべす」の歌

 最近、京都生活の時代を思い出す機会が幾つかありまして、この歌が頭から離れません。





*御所手毬
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 我が家に長いこと飾ってある手芸品です。ちょっとくたびれています(笑)。




 「丸竹夷(まるたけえべす)」の歌
は、古い手毬唄だと聞いていたのですが、歌の内容から推察するに、江戸期以降のように思われます。

 私が20代の頃(40年も前の古い話です(笑))、3年ほど京都に住んでいたことがありました。赴任してすぐに覚えさせられたのがこの歌と、「上ㇽ・下ㇽ(のぼる・さがる)」と「西入ㇽ・東入ㇽ(にしいる・ひがしいる)」でした。

 私が覚えさせられた「丸竹夷」の歌は以下のようなものです。
 『まるたけえべすにおしおいけ あねさんろっかくたこにしき しあやぶったかまつまんごじょう』
 
 この後も、
 『せったちゃらちゃらうおのたな ろくじょうさんてつとおりすぎ ひっちょうこえればはっくじょう じゅうじょうとうじでとどめさす』
と、続くのですが、京の中心部は前半だけで十分ですので、後半はうろ覚えでした。
 ま、それには、CMで流れる歌は前半だけだったこともあります。
 実は、この「丸竹夷」の歌は、かの有名な「聖護院八ツ橋本店」のCMに使われていて、毎日のように放映されていたのです。
*江戸時代の手毬遊びの様子
   「近世風俗志(四)」喜多川守貞著/岩波文庫 p334、335をコピー

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 この歌は、京の都の東西の通りの名を憶える為の歌でもあります。<通り>の名を省略して順に列記しますと、
注:「-小路」には<通り>は付きません)
 「丸太町(まるたまち)」、「竹屋町(たけやまち)」、「夷川(えべすがわ)/えびすがわ」、「二条(じょう)」、「押小路(おしこうじ)」、「御池(おいけ)」、「姉小路(あねこうじ)」、「三条(さんじょう)、「六角(ろっかく)」、「蛸薬師(たこやくし)」、「錦小路(にしきこうじ)」、「四条(じょう)」、「綾小路(あやのこうじ)」、「仏光寺(ぶっこうじ)」、「高辻(たかつじ)」、「松原(まつばら)」、「万寿寺(まんじゅじ)」、「五条(ごじょう)」
と、なります。

 当然ながら、南北の通りの名の歌もあります。それは「寺御幸(てらごこ)」の歌と言います。こちらは、ちょっと変拍子っぽく、憶えにくいのですが、
 てら(寺町) ごこ(御幸町) ふや(麩屋町) とみ(富小路) やなぎ(柳馬場) さかい(堺町) /たか(高倉) あい(間之町) ひがし(東洞院) くるまやちょう(車屋町) /からす(烏丸) りょうがえ(両替町) むろ(室町) ころも(衣棚) /しんまち(新町) かまんざ(釜座) にし(西洞院) おがわ(小川) /あぶら(油小路) さめない(醒ヶ井)で ほりかわ(堀川)のみず /よしや(葭屋町) いの(猪熊) くろ(黒門) おおみや(大宮)へ /まつ(松屋町) ひぐらし(日暮)にちえこういん(智恵光院) /じょうふく(浄福寺) せんぼん(千本) はてはにしじん』
と、なります。最後の「にしじん」は、「西陣」の事なのですが、これは地域名で通りの名ではありません。調子を整えるために付けられた語句です。

 そして、これに上記の「上ㇽ・下ㇽ(のぼる・さがる)」と「西入ㇽ・東入ㇽ(にしいる・ひがしいる)」を加えますと、京の町の特定の場所を指し示す事が出来る訳です。
 例えば、「京都高島屋」の場所ですが、「四条河原町西入ㇽ」もしくは、「四条河原町西入ㇽ真町」と、言うような呼び方で指定が出来ます。
 また、京都には町々の内に細かい路地(京都では「ろぅじ」と、少し伸ばして発音します)が通っていることが良くあります。「先斗町」や「木屋町」等がその典型ですね。そのような路地の内の場所を挿す呼び名としては、「河原町三条下ㇽ・二筋目東入ㇽ」のような言い方をします。(ちなみに、これは「後藤象二郎寓居跡」の場所です)

 このような、南北の通りを基底とした十字交点指定は、勿論京都が「条坊制」によって造られた碁盤の目のような街だからと言えるわけで、それ故に1962年に発布された「住居表示に関する法律」が未だに適用されない例外的な都市でもあるわけです。


 ここまで書き進みまして、「いつも仙台城下の話しかしないのに、唐突に何故京都の話?」と、疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 実は、「”通りの名と町の名”の概念は、今と昔では異なっている」という事をどういう風に説明したら良いか、とずうっと考えていました。そこで思いついたのが、この「京の町の通りの名の歌」でした。これを導入部に持って来れば後の話がしやすいのではないか、という事です。

 と、いう事で、次回は「条坊制」と、「天正の地割」について書いてみようと思います。




<追記>
 東西の通りの歌なのですが、「まるたけえべす」の歌の他にもう一種類、別な歌があります。私が良い加減「まるたけえべす」を覚えた頃、先輩の女性が「もっと憶えやすい歌もあるよ」と言って教えてくれたものです。
 『坊さん頭は「丸太町」/つるっとすべって「竹屋町」/水の流れは「夷川」/「二条」で買うた生薬(きぐすり)を/ただでやるのは「押小路」/「御池」で出逢うた「姉」「三」(あねさん)に/「六」銭もろうて「蛸」買うて/「錦」で落として「四」かられて(しかられて)/「綾」まったけど(あやまったけど)「仏」仏と(ぶつぶつと)/「高」(たか)がしれてる「松」(ま)どしたろ』
 確かにこっちのほうが覚えやすいのですが…、なんでもっと早く教えてくれなかったの!

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この記事へのコメント

2018年06月09日 17:14
こんにちは。
京都が住居表示の法律が適応されないということを初めて知りました。
今あるラジオ番組で,子供をあやすときにつかう「あいくて,のいくて,ずもんだい」という関西の言葉について調査しているのですが,聞いたことありますか。突然すみません。
2018年06月09日 20:39
ET先生、こんばんは。

 お尋ねの件ですが、「あやし言葉」の一つのようなのですが、私は聞いたことがありません。関西方言と言っても範囲が広く、地域方言も含めますとかなりの数になります。また、私が京都にいたのはわずか3年ですし、通り一遍の京都弁はなんとか分かりますが、ディープな方言はからっきしだめです。
 で、これは私の推測になるのですが、初句の「あいくて」は「愛らしくて」、二句目の「のいくて」は全く分からず、最後の「ずもんだい」は、類推される京都方言で「ずつない」=どうしようもない、我慢が出来ない、があるのですが…、果たしてどうなのか、自信がありません。
 お役に立てませんで、申し訳ありません。


追記:「のいくて」は「のう、良くて」かなあ?
2018年06月16日 12:19
こんにちは。
子どもをあやすときの歌,同じラジオ番組で謎が解けたので報告します。
これは大阪を中心とした「紺屋(こうや)のねずみ」というわらべ歌だそうです。紺屋は藍染め屋のことで,「あいくて のいくて ずもんだい」と聞いていたのは「藍食って,糊食って,すまんだへ」なんだそうです。
「すまんだへ」とは「隅っこへ」という意味だそうです。いろいろ推察いただきましてありがとうございました。
2018年06月17日 08:25
ET先生、ご報告ありがとうございます。
 なるほど、そうだったんですね。まるっきり見当違いでした。

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